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新しい官民連携の在り方を追究する「官民連携推進lab」 ~「AIとこれからの社会」参加レポート

省庁は何かと縦割りで融通が利かないと批判されがちであるが、日本が法治国家であって、法律が行政機能ごとに所管分野を決めている以上、法律に従えば縦割りになるのはあたりまえなのだ。構造的にそうならざるを得ないのだが、それは問題に対する対応の結果であって、未来を予測して動いたものではない。したがって残念ながら政策はいつも後手にまわりがちである。外からは見えにくいが、こういった中央省庁の構造的な問題に若手官僚は大いに危機感を持っている。来るべき未来に手を打って行くためには、管掌分野をこえた自発的な取り組みと、横櫛を刺す人的な連携によってカバーしていく必要がある。そのとき、霞が関の中だけで考えるのではなく、民間企業の知恵があったほうがより創造的なものが生み出せる。そこで、官民連携推進labは若手を始めとした幅広い世代の官僚と民間の有志によって運営されているのだ。では、どんな取り組みが行われているのか、今回、防衛省の西田氏、環境省の福井氏、トイトマ社の山中氏主催の会議に参加してみた。

開催場所:総務省、テーマ:AIとこれからの社会

参加者の所属 省庁:内閣府、内閣官房、総務省、環境省、金融庁、文部科学省、厚生労働省、農水省、国土交通省、経済産業省、防衛省

 

官民連携推進labとは

(全体をプロデュースするトイトマ山中哲男氏)

官民連携推進labは、現状への危機感と課題意識を持っている若手官僚が、他者の協力を得て課題解決できるようにゆるやかに連携していく、人を中心とするプラットフォームだ。そして、各省庁の壁を越え官と官、そして官と民が組織の壁を越えて共に1つの課題に向き合う。また、メンバーには国連職員や大学教員も加わっている。今回はAIとこれからの社会がテーマだ。AIがもたらす社会変革の中で、働き方の在り方や、課題解決における官民の役割分担が問われている。これらをアイデアソンを通じて、鮮明にしていくことが狙いのようだ。

 

AI時代の前哨となる働き方改革

まず、本テーマに入るまえに、総務省小泉氏から中央省庁における働き方改革の事例が紹介された。

  (総務省 小泉氏)

明日の日本を支える基盤づくりを目指す、総務省の働き方改革は現場主導で進んでいる。従来の役所のイメージは、行政資料の紙がうず高く積みあがっていて、雑然としているといったもの。それに対し、今回総務省の取り組みは、「オフィス改革」と銘打ち、ICTを活用しフリーアドレス制とペーパーレス化によって、場所にとらわれない働き方を追求。課長の席も取っ払ってしまった(中央省庁における課長席を無くすというのは画期的なことだ!)。これによりコミュニケーションが活性化し、意思決定が速くなった。その結果仕事の生産性があがり、業務終了時間が早まった。つまり価値創造のための時間が作れるようになった。官僚が創造的な時間を確保し、外とつながり、所管や前例を超えて本当に価値ある仕事に時間を割けるようになるのが最終ゴールだと小泉氏は指摘する。今では他省庁や地方自治体、民間企業の視察が引きも切らないという。

 

キーノートスピーチ AI社会に向けて

  (内閣府 塚本氏)

塚本氏は、富士フイルムの研究部門から内閣府に出向している。材料分野が専門の博士(理学)で、入省前には新規事業創出に関わっていたことから、人の繋がりがイノベーションを生み出す契機となることを強く認識。大企業の若手ネットワークである「ONE JAPAN」にも富士フイルムの有志団体の代表者として参加していた。また、自ら積極的に繋がりを作るためのワークショップのファシリテーターも数多く引き受ける。IBM会長のロメッテイも指摘するように「未来を予測することは難しい」だから「未来に影響力を持つ方々の話を聞き考える」ことが重要なのだと塚本氏は言う。変化の速い時代、現場の判断がますます重要になっているので、多様な現場の人と接する機会を創出しているとのこと。

 

その時、自身の専門性のバイアスに囚われないように注意が必要だと言う。例としてBrigham and Women’s HospitalのTrafton Drew博士によって行われた実験がある。(https://www.brighamandwomens.org/about-bwh/newsroom/press-releases-detail?id=1520 )。胸部のCTスキャン画像の中に、肺結節の48倍もの大きさの誰が見てもわかるゴリラの画像を挿入しても、専門家である放射線科医83%は気が付かなかった。いつも見ているものは微細な細胞の異変だから、視界に入っていても認識しないのだ。「自分と異なる専門の方とお話することでこういった専門家ならではのバイアスを取り外してもらうことが重要」と塚本氏は強調する。

 

さて、現世代の人工知能が周知されるきっかけとなったのは、ディープラーニングが発達したことによる。Googleでは、AIにYouTubeの猫の動画を学習させ、猫の識別ができるようになった。今進行中のAI、ロボット革命は、先カンブリア時代に生物が目を持った時の状況にたとえられる。生物は獲得した目により、獲物を追いかけたり、逃げたりする戦略オプションが増え、これが、多様な生物を一気に生み出す「カンブリア爆発」を巻き起こしたという説がある。今でいうと、この画像認識がその目にあたる。これにより、自動運転車や多様なロボットが動き回る時代となってきた。また、自然言語処理においても、2018年6月にはディベート大会でAIが人間に勝った。AIやロボットが人間の仕事を代替すると捉えるより、ものや人間の能力がデジタルデータ化すると捉えた方が未来を考えやすいのではないかと塚本氏は言う。例えば、植物工場などで均質な食材が手に入り調理ロボットが料理をするという世の中が実現した場合、料理のレシピを送信すれば世界中どこでも同じ料理が出来上がる。それはものである料理やシェフの能力がデジタルデータと同じように扱えるようになるということである。ブロックチェーンによるデータの信頼性付与も、人やものや能力の信頼性が高まるということである。卑近な例では、食材の世界でもトレーサービリティが実現できる。これらが組織に適応されるとティール組織の運営にも活用できるだろう。ティール組織とは従来の組織管理はせず、自律的に、人が集まり、目的や課題を共有し、課題解決し、成果に見合った報酬を受け取るなどといった新しい組織形態だ。「これからの人間の仕事は、「何に価値があるかを定義(価値をデザイン)すること」になるだろう。そのとき、人間はやりたいことをやればよい」と塚本氏は総括する。

 

 

問題提起に対するセッション

「人間は価値をデザインし、やりたいことをやる、やりたい仕事は何か?」こういった問題提起に対してパネルの方々に意見を聞いてみよう。

  (イセオサム氏)

イセ氏は、「写真で一言ボケて」のアプリが500万ダウンロードを突破した人気アプリを提供する株式会社オモロキの取締役でありながら、自らも起業やアドバイザーをしている。ボケてもGoogleのAIを活用しているとのこと。「当初は不適切な投稿画像を手動で外していましたが、本来人間がやる仕事ではないですよね。以前は人工知能も精度が低く、止むを得なかったのですが、最近は精度が向上し、人間を超えることで安心してAIに任せられるようになりました。このようにAIは人がやらなくてもよいことをやってくれ、我々がやるべきことに集中できるようになっています。今後はAIが人を笑わせるようになってくるでしょう」。

 

  (いけじま企画 池嶋氏)

外資系コンサルや事業開発、事業再生コンサル会社を経て起業した池嶋氏の関わっているクライアント会社では、金融機関が与信を判断するときのスコアを出すための行動履歴、消費の傾向を定量化していくプロジェクトを実施しているところだ。池嶋氏の意見によると、AIが進化してくると、人間に近づきコンピューターが恋したり嫉妬したりするようになるかもしれないという。

 

  (内閣府 中村氏)

文部科学省から内閣府に出向している中村氏は、二枚目の名刺で、NPO法人プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)の運営にも関わる。およそ10年前に設立された団体で、創業世代から数えて3世代目となっている。「一番の問題は、日本の組織に内在する旧来の仕組みだ」と中村氏は指摘する。

例えば、霞が関では、出勤した証に、紙の出勤簿に日々印鑑に押すという決まりがある。技術的には、ICカードやPCで出退庁管理が問題なくできるにも関わらず。「これは、大元の法律からブレイクダウンされている役所のルールで子細に決まっているもので、それを定めた当時は、最善の方法だったかもしれない。しかし、テクノロジーの進化により、こうした事務手続きはもっと合理的かつ効率的にできるはず。行政官の商品は政策であり、その質を高め、市民の期待に応えることこそが目的の最上位ではないか。」

AIについて、「導入する担当者だけが傑出して詳しいということに留めるべきではなく、それを『使いこなす』ための役所全体のリテラシーを上げることが、最終的なゴールである良い政策を作るためには必要。」と中村氏はいう。「こうした官民有志の集まる場は、セクターを超えた人と人との交流にとても重要であるばかりでなく、知の探索にきわめて有効であると思う。私たちの改革案にも人材の流動化を柱として掲げており、役所の中もリボルビングドアで、内外の人材が流動し、知の還流や新しいコラボレーションができる仕組みをつくりたい。」

時代の求めるスピード感は増す一方、それを支えるはずの仕組みがその企画立案を十分にサポートできているか。「『働き方改革』はその手段の一つであり、良い政策につなげられるように仕組みを変えようと訴えてきた。」

中村氏は、行政官として仕事をしつつ、外に出て色々な方と議論をして知見を深め、仕組みを変える改革の提案を精力的に続けている。

 

AI社会に向けたアイデアソンの実施

ここから、塚本氏のリードによりアイデアソンが始まった。価値をデザインするには、価値があって自分でやりたいと思う仕事や具体的なサービスを考えてみようと言う。

4人一組で、まずは自己紹介から。

 

次に、各人のやりたい仕事のアイデアを他にプレゼンする。2名でペアになって、次々に相手を変えアイデア説明し、ペアの意見を聞きながらブラッシュアップしていく。白熱する高速ペアブレストだ。

 

アイデアがまとまったところで、各自シートに記入。

 

巡回しながら、良いと思うアイデアに★印をつける。各自席に戻って、自分のシートの★の数を数える。

 

いよいよ、高得点者の発表に移る。

 

  • アイデア1 「強制井戸端会議」

  (内閣府 仁林氏)

「強制井戸端会議とは、AIにつけられない付加価値を人間がどうつけるかという課題に対応するもの。そのためには人間力をつけることが重要です。フェイスtoフェースというマッチングの機会を多量に創出し、人間力を鍛えます」。

 

  • アイデア2 「相性の良い人を見つけるデータベース」

(経産省 板垣氏)

「素敵な人、好きなといっしょに仕事をしたら楽しい。新しいことをやろうとしたとき、組める相手がすぐ見つかるデータベース。好きになれる人、相性が良い人と仕事ができます」。

 

  • アイデア3 「リソースをプレゼントできる仕組み」

(防衛省 西田氏)

「60歳過ぎると、労働者としての市場価値は急激に下がります。しかし、人間としての価値が下がっているわけではない。歳を取ることによって獲得できる知見もあります。そういった価値を評価して、後代に循環できる仕組みを作りたい」。

(これ以外にも4件の発表があったが割愛する)。

 

この後各自の関心の高い、具体的な提案上位7件について、当該テーマの人が在席するテーブルに行き、課題と企画の深堀していった。

官民連携推進labは、単なる勉強会ではなく、具体的な課題を通して交流を生み出し、課題解決を高度化していく仕組みづくりを行っている。今回のテーマにしたがえば、多量なアイデアを出し、多くの人の意見を聞くことで、価値のデザインの精度を高めていくというアクションになる。今起こっている世の中の問題を把握するためには、一旦自身の役割を離れて、ゼロベースで対象に触れ、柔軟に発想していく必要がある。一件荒唐無稽に思えるアイデアの中に、政策で実現すべき革新的なテーマが潜んでいるのだ。塚本氏の指摘するように、まず、専門家の既成概念を取っ払ってみることはきわめて重要だ。

今後も各省庁持ち回りで会場を移動し、様々な企画が展開されていく。単なる座学の勉強会ではなく、交流と行動を中心としていることに価値がある。