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日本財団フェイスシールドプロジェクトの舞台裏~イノベーションはステークホルダーとの協働の中で起こる

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新型コロナ感染症の世界的な拡大に伴い、社会全体で大きな行動変容が求められ、新しい日常を手探りで模索する日々が続いています。この間、多くの企業・団体がフェイスシールドやマスクを制作し、各所に寄贈する流れがありました。日本財団もまた、その一者ですが、ソーシャルイノベーションを追求する彼らの取り組みには、障がい者就労の工賃倍増計画というもう一つ大きな社会包摂的意図が隠されています。

今回のフェイスシールド提供プロジェクトを推進する竹村利道さんは、「ステークホルダーとの協働によってイノベーションは成立する」と発言しています。日本財団が今回のプロジェクトにかける想いを取材してきました。

 

「簡易版フェイスシールド無償提供プロジェクト」とは

プロジェクトの経緯や概要

――まず、本プロジェクトについて教えてください。

「簡易版フェイスシールド無償提供プロジェクト」は、名前の通り、新型コロナウィルスの流行に伴い、様々な支援物資が不足する中、全国の医療機関において院内感染防止に有効とされるフェイスシールドを、日本財団が無償で提供するプロジェクトです。

第1弾として4,500個のパイロット版を川崎市の医療機関へ提供し、現場の皆さまからのありがたい評価をいただき、それを皮きりに、第2弾36,500個・第3弾13万5,000個の作成と提供を現在進行しているところであり、2020年9月1日現在、約300医療機関への提供が完了しています。

製造をお願いしているのは、全国の障がい者就労継続支援施設(以下、障がい者就労施設)のワーカーの方々です。

そして、その障がい者就労施設における製造のマネジメントは「障がい者特化型BPO※サービス」を展開しているVALT JAPAN株式会社に依頼をし、マネジメントしていただいている形になります。※BPO:ビジネス・プロセス・アウトソーシング

外見はすべて我々日本財団が行っているように見えますが、実は、様々なステークホルダーの皆様のご協力があって、このプロジェクトは進行しています。結果として、医療機関の最前線でコロナウィルスに立ち向かってらっしゃる医療従事者の支援をさせていただけていることは光栄ですし、ステークホルダーの皆様には大変感謝しております。

医療機関に届けられたフェイスシールド 聖マリアンナ医科大学病院にて

――プロジェクトのきっかけや背景について、教えていただけますか?

あれは国の緊急事態宣言が発令された4月初旬頃だったでしょうか、関東労災病院から悲鳴にも似た支援物資の要請があったのです。現場ではマスク1つすら足りない状況で、得体の知れない新型コロナウィルスへの恐怖と医療従事者は向き合い、日本に襲い掛かるパンデミックに対して、まさに命を賭して戦ってらっしゃいました。

私はこれまで日本財団も様々な慈善事業を行ってきましたが、あれほど無力感にさいなまれたことはなかったように感じます。というのも、フェイスシールドが足りないという要請に対して、我々の資金を使って送ることは可能なのですが、その肝心のフェイスシールド自体の流通が少なく、思うように支援ができなかったのです。

そんな中、各国の発想力ある方々がWEB上で簡易版のマスクや医療物資を作成していることを知りました。その時、私の中で「これならいけるかもしれない」という道筋が見え、その想いで早速行動に移したのです。

 

――どういうことでしょうか。

私は現在、公益事業部国内事業開発チーム シニアオフィサー(プロジェクトの責任者)として「日本財団障がい者はたらくサポートプロジェクト」を管理しています。
全国各地に、地域に根ざした障害者就労のモデルとなる新事業を資金とノウハウの助成をしながら、福祉事業者や企業の方々と考え、構築していく活動なのですが、簡易的なフェイスシールドであれば障がい者にも作成可能だと考えたのです。

とうのも、私自身も実は30年間にわたって障がい者就労支援の事業者として従事してきている身ですから、”できる”というイメージが湧いたのです。

折しも、コロナの影響で障がい者就労施設は、悲しいかな産業構造のヒエラルキーでも末端に位置していることもあり、仕事の発注自体が激減してしまっていました。もしここで、フェイスシールドを施設で製造して仕事を生み出し、それを医療現場に届けることができれば、障がい者就労支援とコロナ支援という日本の社会課題を、同時に解決できるスキームを成立させられるのではと思ったわけです。

 

――実際に思いつくことはできても、なかなかハードルが高そうですよね。

はい。もちろん、当初は障がい者に医療現場で使用するものを製造するのは難しいのではないかという声が方々から上がりました。しかし、私自身30年以上施設のワーカーさんの仕事ぶりを見てきましたから、マネジメントサイドが諦めなければ実行可能であり、この機会をチャンスと捉えればきっと実現できるに違いないと思い、前述のようにまずはパイロット版4500個を制作するに至りました。

 

――始めてみてどうでしたか?

現状、プロジェクトが進んでいることからも自明ですが、行ってみると”やっぱり可能だ”ということがわかりました。当初、フェイスシールド1個を作るのに、1時間かかるのではないかとも言われたのですが、実際は10分で制作が可能ということがわかり、大きな手ごたえを感じたものです。

製品を使用する医療現場の方からのお声も嬉しい評価をいただき、さらに第2弾、第3弾については自信をもってプロジェクトを遂行していくことができています。

 

――現状わかってきた課題や、今後の展望についてはどうお考えですか?

第1弾4,500個、第2弾165,000個(9月〜10月中に完了予定)という現状になりますが、実はこの第2弾で医療機関への無償提供自体は終了する予定です。

理由は、市場でフェイスシールドが供給されはじめこと、そして行政でも支援が始まったことが挙げられます。

我々日本財団は、活動指針「フィランソロピー実践のための七つの鍵」として、「あまねく平等にではなく、優先順位を持って、深く、且つ、きめ細かく対応すること」と表明しているように、喫緊の社会課題への対応をするべく本プロジェクトを立ち上げましたから、民業を圧迫するようなフェーズに入ってなお、我々が行う意義はありません。数カ月前、現場ではアマガッパを着てでもウイルス防護をしなければと喩えられるほど、現場では医療崩壊を防ぐために切迫した状況だったのですが、昨今の状況では我々の役割はひと段落ついてきていると言えます。

今後は、今回のフェイスシールドプロジェクトを障がい者就労の成功モデルの1つとしてプロジェクト全体の活動に役立てていこうと思っています。

熱心に取り組まれる施設のワーカーの方々

 

消えぬ青白い炎 ~人生をかけたミッションと福祉への想い

――ここで、竹村さん自身のことについてうかがいたいのですが、日本財団でのフェイスシールドプロジェクトに至るまでの経緯について教えていただけますか?

前述のように、私は20代のころから高知県にて医療施設や福祉現場に従事してきました。初めは病院に就職しソーシャルワーカーとして様々な不安や悩みを抱えた患者さんのサポートをしていたのですが、残念ながら、退院しても舞い戻ってきてしまう患者さんに多く出会ったのです。その過程で地域医療に問題があると感じ、障がい者福祉センターで働き始めたのが25歳の頃。

そこでの現実が私を変えたといっても、過言ではなく、それが今の日本財団での活動にも繋がっています。

 

――どういったことがあったのでしょう?

一言で言うと、”福祉支援自体が障がい者の自立を阻んでいる構造を持ってしまっている”ということに気づいてしまったのです。

障がい者の労働に対する対価は、一般的に”工賃”と言われていて、労働基準法に準じた賃金・報酬・給料という位置づけではないのです。その額は、1カ月で5,6000円程度、生涯獲得は100万円に満たないとも言われています。

私は日々ワーカーさんと接する中で、なんでこんな仕事をして生涯獲得賃金が100万円に満たないんだろう?なんで施設の職員の方を先生先生と言って一生が終わるんだろう?と思い、そこにいた職員におかしくないですか?と聞いてみた時、「障がい者だから仕方ないじゃないですか、竹村さん」と言われてしまったのです。

その時私は、言い方をはばからずに言ってしまいますが、現場に対して怒りの感情がこみ上げたのです。

現場の支援者に対する怒りもそうですし、もっといえば当事者に対してもあなた達そんなんでいいのかという怒り、その家族に対してもこれででいいのですかという怒り。そして何より、こういった障がい者の自立を福祉現場が諦めている現状に対して、自分自身が行動に移せていないという“己への怒り”がこみ上げたのです!

人って最初はオカシイと思っていても、残念ながら、だんだんなじんできてしまうものなのですよね。その点、私に唯一能力があるとするなら、この怒りを忘れられないという能力なんだと思います。

それ以来、この福祉現場に蔓延する如何ともしがたい風習を何とかしなければならないと思い、ここまでやってきましたし、これからもやっていくつもりです。ボーボーと燃える一過性の炎ではなく、青白い消えない炎があるんです。青白い炎って熱くてヤケドするんですよ(笑)

 

――日本財団とのご縁はどうして?

日本財団とは、福祉事業者を自立させることテーマに地元高知で活動する中で、関わりが生まれ、様々な意見を交わすうちに、「じゃあお前がやってくれ」という流れになり、プロジェクト建てをしてジョインすることになったのが2014年。現在、6年目を迎えます。

 

――日本財団ではこれまでどのような取り組みをされてきたのですか?

SEASON1は「はたらくNIPPON!計画」と題し、2015年から2018年の3年間において、障がい者が営むお花屋さんだったり、聴覚障碍者が筆談でサービスをするスープカフェなど「障がい者もやればできるんだ!」というような個々の事例を全国で33創出し、障がい者就労の社会的ポジションを世間に示し、成果を上げてきました。

こうした1つ1つの”個”の成果を踏まえ、2019年からのSEASON2では、「日本財団障がい者はたらくサポート」と銘打ち、言うなれば”社会システムを構築していくフェーズ“に入りました。「モデル構築プロジェクト」と「就労支援フォーラムNIPPON」を大きな2つの柱で活動しています。

 

参考:日本財団はたらく障害者サポートプロジェクト」公式ページ https://hataraku-nippon.jp/

今回のフェイスシールドプロジェクトは、このSEASON2のモデル構築の一環として位置けられています。

 

 

ステークホルダーとの価値創造と関係性

フェイスシールドプロジェクトは、様々なステークホルダーとの関りによって達成されている。日本財団としてどのようにステークホルダーと向き合っているのか、どう価値創造が織りなされているのかもう一歩踏み込んでお聞きしてみた。

VALTJAPAN

――まず、BPOとしてフェイスシールド製造を発注しているVALTJAPANとの向き合い方についてお聞かせください。

VALTJAPANさん(以下、VALTさん)には本当に感謝しています。今回のプロジェクトは、計8社のBPO事業者との取引を検討したのですが、VALTさんは一歩抜きに出た存在でした。

(VALTJAPAN GURULI記事は→コチラ

――どういうことでしょうか?

まず、BPO事業者という、仕事を受注してそれを発注するというハブになる立場として、受注元・発注先への理解があることが求められます。これは当然のように思えますが、福祉の世界においては実はとても難しいのです。

なぜなら、障がい者現場がどのような仕事なら実行可能で、どのような仕事だと受け入れられないかは、現場のことを知っていないと難しいからです。障がい者はそれぞれハンディキャップの持ち方に個性がありますから、一括のスキームを押し付けても実行が不可能であることも多いのです。

一方、例えば知的障がい者は情報入力が得意だったりするなど、適材適所で人材をポジショニングすることができれば障がい者も十分に社会に貢献することは可能です。

つまり、障がい者の特性・施設の特性を理解していないと、たんに仕事を右から左に仕事を流してもうまく機能しないですし、実際に案件が上手く進まない事例が多いのが現状です。

また、先にお話した通り、残念ながら福祉現場ではワーカーさんを支える事業者自体に、障がい者を自立させようというマインドが乏しいこということもあり、納期管理や製品のクオリティマネジメント等、企業では当たり前のように求められる意識が欠けているという現状もあります。たとえば、1万個のアッセンブリ作業があったとして、納期日の1週間前になって「8,000個までは頑張れましたよ」とか「このくらいなら大丈夫ですよね」と設計書の使用を勝手に変えてみたり、色んな事があるんですよ。。

このように福祉就労業界でのBPOには様々なハードルがあるのですが、VALTJAPANという障がい者就労支援に特化したプロが入り、システムによる管理体制を敷いてもらうことで、業界の課題が飛躍的に解消されるんです。例えばですが、施設Aでの生産が追い付かなければ施設Bに振り分けるといったように、柔軟にマネジメント行ってくれているようで、施主の我々としても安心して仕事をお願しています。

こういったマネジメントができる企業はVALTさん以外に聞いたことがありません。

 

――日本財団はたらく障害者サポートプロジェクトとVALTJAPANの取り組みは、とても相性がよいように思えます。実際にプロジェクトを進行する中で見えてきたことは、どんなことがあるでしょうか。

大きいことを言うようですが、私は今回VALTさんにお願いしたことで、BPOを活用することは、福祉就労の社会課題に風穴を開けるイノベーションを巻き起こすの可能性を感じています。

 

――というと?

実際のところ、これまでの風習のように福祉事業者が自前で仕事の営業受注を行おうとするのは、構造的にどうしても難しいのです。というのも、年間約6000億円の予算が福祉就労事業者への支援として日本から認められていますが、そのうち工賃としていくら障がい者ワーカーの方に振り分けるかは、法的に決められていません。

そうなると、どうしても障がい者を労働力として育成する財源を確保したり、対価になる工賃を障がい者に振り分けるような調整力が働きにくくなってしまうのです。

ですから、福祉事業者はどうしても「お仕事をください」というスタンスになってしまい、発注側もどうしても「ではこのアメちゃんをどうぞ」と手のひらに乗せるいうような、”与える側と与えられる側という関係”になってしまうんです。長年かけて醸成されたこの社会構造に変革をもたらすのは、相当に難しいことなのです。

その点、VALTさんのような障がい者就労に特化した第三者BPOが間に入ってくれるおかげで、社会的に適正な価格での受発注が実現するようクオリティマネジメントがなされるので、障がい者就労の工賃を引き上げる調整力が働きます。

仕事を発注する企業としても、障がい者が労働力として価値ある存在だと理解できたなら、アメちゃんではなく、”シェイクハンドの関係”として事業を共に発展させてくれるパートナーとして福祉事業者を位置づけてくれるのではないでしょうか。

これは、第三者的な立場として入ってくれる存在があってこそのことですから、そういった意味で業界の常識に変革をもたらしてくれる立役者になってくれるのではと期待しています。

 

――まさにステークホルダーと共にあらたな価値を共創していく取り組みですね。

はい。私としては、こうした実績を積み上げ社会的なシステムをBPO事業者と共に確立し、その頑張りを厚労省にも示して報酬をもらうことで、さらに福祉現場の社会的地位を向上させていくという良いサイクルを日本に生み出していきたいと思っています。

この感覚は、私の中でも今回VALTさんとプロジェクトを遂行して初めて感じることができた手ごたえなんです。

 

――改めてVALTJAPANに対してメッセージをいただけますでしょうか。

私も福祉事業者として想像ができるのですが、VALTさんには必ず医療機関や施設から、様々なクレームのあれあられだと思うんです。その声が我々施主に一切上がってくることはなく、順調にフェイスシールドプロジェクトが進められているのは、VALTさんが各々の顧客の立場を理解し、現場の声を吸収し、それを反映させた運営体制を作られている証だと感心しています。

我々は障がい者就労事業における受発注400億の達成とシステム構築を達成させるべく邁進していきますから、ぜひ量的・質的な面でBPOというプロフェッショナルとして協力していただき、長い道のりを共に切磋琢磨できる関係でいられたらと思っています。

 

~障がい者就労施設~

――製造元である施設に対してはどのように向き合ってらっしゃいますか?

施設については、お答えとして期待に沿えないかもしれませんが「〇〇個の作成をおかげ様で行っています」というようなメールのやりとりを行うことはありますが、今回のプロジェクトに関しては直接的に施設の方からの声を聞く機会はほぼないのです。

というのも、前述の通りVALTさんが全て現場の声を吸収してくれているおかげで個々のやりとりについては一切私の方に上がってくることはありません。

 

――では思いとしては、どのような思いを施設の方に抱いてでプロジェクトに臨まれていますか?

これは同胞として厳しい言い方になってしまうかもしれませんが、どうか障がい者が自立し少しでも日本の役に立てる存在としての地位を確立するためにも、事業者の方にも意識を高めていってほしい。

もちろん、重篤な障がいを持たれている方やご家族に対しては、無条件の支援が必要だということは言うまでもありません。

しかし、”魚を与えれば1日で食べてしまうが、釣り針を与え釣り方を教えれば生涯食べていくことができる”という故事のように、釣り針を与えていく存在になれるようになってほしいと思っています。

世の中には沢山の仕事があります。フェイスシールドでなくても、BPOを利用してでも、仕事を作っていくのが福祉事業者の仕事です。その責任を今回のコロナのせいにしてしまうのではなく、どうかチャンスとしてとらえてほしい。私も諦めず頑張りますから、どうか一緒に頑張りましょう。

~物資支援先=医療機関~

――対医療機関への向き合い方についてはいかがでしょうか。

医療機関に対しては、「少しでもお役に立てたら嬉しい」という一言に尽きます。我々の作るフェイスシールドは、急場しのぎで完全無欠な製品ではないですが、使用した医療従事者の皆さまが当たり前のように院内感染から身を守り、少しでも不安が取り除かれていることを願っています。

 

――フェイスシールド提供プロジェクトの裏側では、各ステークホルダーとの価値の共創があったのですね。さらには、ステークホルダーであるBPO事業者を巻き込むことで福祉就労業界にイノベーションをもたらす可能性すら秘めていることもわかりました。本日は貴重なお話ありがとうございました。

 

 

<プロフィール>
竹村利通
日本財団 公益事業部国内事業開発チーム シニアオフィサー  

1964年、高知県高知市生まれ。駒澤大学で社会福祉を専攻後、高知市の総合病院で医療ソーシャルワーカーとして勤務する。特定非営利活動法人ワークスみらい高知の代表を経て、現在は、日本財団国内事業開発チームシニアオフィサーとして「日本財団はたらく障害者サポートプロジェクト」の指揮を執る。

 

<企業概要>
公益財団法人 日本財団 ( The Nippon Foundation )
https://www.nippon-foundation.or.jp/
〒107−8404 東京都港区赤坂1丁目2番2号日本財団ビル
設立:1962年10月1日
会長:笹川陽平

日本財団はたらく障害者サポートプロジェクト
https://hataraku-nippon.jp/

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