/人を大切にする経営学会会長 坂本光司先生~介護法人も正しい経営目的と使命をもっていい会社になるべきだ

人を大切にする経営学会会長 坂本光司先生~介護法人も正しい経営目的と使命をもっていい会社になるべきだ

 

坂本先生の「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズはすでに6巻となり、先生は今、7巻目に着手されている。その中で、取り上げる予定の法人の一つが、離職率7%、残業時間月平均7時間を実現し、人を大切にする経営を実践する合掌苑だ。同法人は、今回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞実行委員会特別賞受賞を受賞した。今回、この合掌苑を例に、介護法人が取り組むべき経営について坂本先生が語った。

(本稿は2019年3月12日に開催された、『介護経営イノベーション』出版記念講演会をもとに作成したものです)

 

経営の目的、使命とは何か?

 

-そもそも会社は何のためにあるのでしょうか?その目的はたった一つです。会社だけに限らず、社会福祉法人も含めてあらゆる組織の目的、それは組織に関係するすべての人々を幸せにすることです。ただし、経営者がそのように思っていればよいということではなく、組織にかかわるすべての人が幸せを実感できる状態になっている必要があります。

 

世の中にはたくさんの組織のリーダーがいますが、組織の目的と手段を間違っていることが多いのです。一般的には、組織の業績を高める、会社を大きくする、売り上げを増やす、業界シェアを増やす、といったことを目的としている。でも、それって本当に会社の目的ですか?と私は問います。

 

日本を代表する大きな会社や、赤字を垂れ流して潰れていく会社は、手段と目的が逆になっていることが多い。手段と目的が逆転すると、社員が手段になってしまいます。つまり、人がコストになる。原材料と評価され、さらに悪くすると景気の調整弁になってしまいます。これは明らかに間違っています。

 

赤字を垂れ流すと、会社はやがて潰れます。潰れたら社員を路頭に迷わせることになり、幸せを実現できません。だから手段として業績を上げる必要がある。業績は大事ですが、あくまでも手段であって、業績を上げないと社員を幸せにできないから業績が必要なのです。

 

私は、8,000社以上の会社を研究してきました。その中で正しい目的、正しい手段で実行された経営で滅びた会社を見たことはありません。社員を幸せにすることが経営の目的として設定してあり、それによって経営する会社で潰れた会社は1社もないということです。つまり、おかしくなった会社は目的と手段に問題があるのです。

 

こういった正しい経営をする企業の中から、2年に1回良い会社の事例を出版しています。今年は本を出しませんが、また来年出します。命ある限り、書く力がある限り書き続けたいと思います。

 

 

企業がトコトン、大切・幸せにしないといけない対象は5人である

 

-関係する人々を幸せにするのが経営ですが、日本では昔から三方よしという言い方があります。売り手よし、買い手よし、世間良しです。否定はしませんが、それだけでは足りません。幸せにしないといけない、関わる人は5人です。なぜかと言うと、三方よしでは陰に隠れて見えない部分が出てくる。見えないからどうでもいいと思われてしまうからです。

 

その5人とは以下のような方々です。

 

1番目「社員とその家族」

2番目「社外社員とその家族」

3番目「現在顧客と未来顧客」

4番目「地域住民、とりわけ障がい者や高齢者等社会的弱者」

5番目「出資者・関係機関」

 

縁の下の力持ち、陰の部分でご苦労されている方々にスポットライトをあてるのが私の提唱する5人です。誰かの犠牲の上に成り立つ経営は欺瞞であると言われます。経営とは喜び、苦しみ、悲しみも分かち合う組織体の運営です。よって、関係するすべての人々を含めて、家族を大きくしたような大家族的な経営が必要なのです。ギスギスした空気が間にはびこるような経営ではなく、暖かい空気が会社の中に流れる、社風のよい会社を目指すべきです。

 

さて、今回のセミナーの対象である介護業界がよくならないのは、幸せにしないといけない5人を幸せにしていないからです。上手くいかないのは、手段よりも目的そのものに間違いがあるということです。

 

最も大切なのは社員(職員)とその家族である

 

-優先順位をつけると、経営者や幹部が一番大事にしないといけないのは目の前にいる、社員(職員)とその家族です。職員と職員の家族を幸せにすることが第一義でなければなりません。

 

私は、学生のころには顧客のために経営すると教えられました。社員が少々苦しくてもお金を払ってくれるのは顧客だから、顧客第一で経営をするものだと教えられました。しかし社会に出てみるとすぐにそれが間違いであることがわかりました。

 

世の中になぜ、それが間違いであることが広まっていないかと言うと、立派な会社は大声を出してPRしませんし、数で示そうと思っても、数が多くないのでその数字は伝わってこないからです。お客様、株主より社員が大事だというのは、経営者が心すべきことです。

 

さて、先に申し上げたトコトンというのはいつでもどこでも、だれでもということで、正規非正規、男女、年齢、国籍問わずということです。職員が会社を去る時、辞める時にいい組織に所属して幸せな人生を送ることができてよかったと言ってもらえる経営をすべきです。

 

私が教わった教科書は3番と5番が一番大事だといいました。そして、売り手よし、買い手よし、世間よしの実態は、経営者よし、顧客よし、株主よしなのです。その中で1番と2番は出てきません、社員とその家族は出てこないし、また、ユニフォームが違うだけの社員である取引先は虫けらように扱われていることもあります。

 

1番と2番に共通しているのは2人とも会社に価値をもたらす商品の供給者であるということです。3番と5番は実際に価値を生み出すわけではありません。

 

お客様より社員が重要な理由は何か?

 

お客様より社員を優先し、前に出した理由は山ほどありますが、今回2つ挙げます。

 

まず、お客様をより満足させようというときに、自分の属する組織に不平不満をもっている社員が組織の業績を高めようと努力するはずがないからです。

 

次に、不平不満を持っていると上司の仕事に協力しようという気にならないからです。むしろ自分の組織の上司が出世するのは嫌だ、苦しみから解放されたいからいなくなってほしいと思うのです。そう考えるのが人間が人間たる所以です。不満があるなら言えばいいのにと思うかもしれませんが、それは言いません。経営者が人事権をもっているから、盾突こうと思わないのです。

 

お客様が喉から手がでるような商品・サービスを提供するのは社員。お客様が感動するような、驚嘆するようなサービスを生み出すのは社員です。顧客がサービスをつくるのではありません。あなたに会いたいから、あなたがいるから買う、という理由でお客様から組織が選ばれているのです。よって、企業の最重要商品は社員と言う名の商品なのです。

 

世間よしの世間とは何か?

 

-4番目の世間ですが、私が言う世間とは、世間良しの世間ではなく、立場の弱い人つまり障がい者、高齢者といった方々です。

 

それは、なぜか?生まれながら障がい者になりたいと思って生まれた人はいない。今度こそ障がい者を産もうと思っている母親は世界中に存在しません。一定の割合で、生まれる時のトラブルで何割かの方が障害になる。我々は何をするべきなのか?もしかしたら私たちやわたしたち家族が障がい者になっていたのかもしれないのです。なぜそんなことがわからないのでしょうか。教育が貧困だから、そうなっているのです。

 

高齢者も同じです、私たちが今の生活を謳歌できているのは、先輩たちのおかげです。その恩恵は順送り、恩送りをしていくものなのです。先輩たちが頑張ったら今がある。それが自然の摂理だと思います。

 

日本でいちばん大切にしたい会社の評価基準

 

「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞は5人を大切にしない会社を評価しません。リストラ、長時間残業、離職率が高い、有給を取らせないといった会社は論外です。残業時間50時間以上といった会社の経営者には、社員を殺す気かと注意しています。長ければ長いほど、業績が高いかというとそうではない。そして、残業時間が長いほど、離職率が高いのはあたりまえです。

 

また、ノルマを与えられ社員は苦しい。経営者には、立場が逆だったらどうなんだという話をします。社員同士を競争させるのは間違っています。柔道なら個人戦ですが、企業はチーム戦です。社員を苦しめる経営をしているからおかしくなる。

 

障がい者を雇用することも、法律では45名以下の企業は免除されていますが、日本でいちばん大切にしたい会社では、その条件は免除しません。もし、5人、10人の会社であって、雇えないなら仕事を出してください。間接雇用、みなし雇用すべきです。障がい者を多数雇用する企業に外注費の2.2%相当分を毎月仕事として出すべきです。この制度を作ればよいのに多くは反対します。何を考えているんだと思います。

 

社員満足度調査を実施すべき

 

実際に社員が幸せを実感しているかどうかは社員満足度調査をやるのがよいと思います。最初は苦情が飛び交うのでいやがりますが、それでもやるべきです。これをやると問題の所在が明らかになる。

 

熱があるといってすべて風邪が原因ではありません。癌だって熱が出る場合があるのに、熱イコール風邪と思って、風邪薬を出すといったことが現実に起こります。しかし熱は現象であって原因ではない。本質的な問題を見定めるべきです。

 

私は、社員満足度を高めるためのこの調査を、1,000社に対してやりました。その結果によると、100点満点で、3タイプの企業に分かれます。

1 立派な業績を上げ、離職率がゼロに近い、残業時間が短い会社……社員満足度70点以上

2 赤字になったり、黒字になったり、景気期待型、景気連動型の会社……概ね50点

3 赤字垂れ流しの会社……40点以下

 

この結果から、社員満足度が業績を決定すると言っても良いでしょう。社員の幸せ度、モチベーション、満足度を高めることに企業の業績は強い相関関係があります。だから、経営者が力を入れるべきは、社員をまず大切にし、社員の満足度を高めることなのです。

 

介護業界の問題とは?

 

-さて、問題というときに、問題には2つあります。それは、一時的問題と、構造的問題です。

 

環境、政策、自然の悪戯で発生する一次的な問題は、待てば回復します。それに対し、構造的問題は、時代が変わった結果発生したものです。変わった時代が新しい環境となったのです。企業は環境適応業であり、構造的問題に対応するためには環境に合わせてわが社を変えるべきなのです。

 

構造的問題にもいろいろありますが、まずは人口問題です。人口は右肩下がり。今後これから20年、日本の人口が減るのは当然として、中でも15~64歳の生産年齢人口が1,200万人減少する。東京都の人口がまるごとなくなるくらい労働力が減少します。一方、高齢者はどんどん増えるから、お客様がたくさんいるにもかかわらず、サービスができないといったことが起こります。つまり、人手不足倒産に至る可能性があります。新卒で言えば、今年の3月に大学を卒業した40数万人に対し、求人が80万人分以上、高卒17万人に対し、求人が40万人分以上あり、さらに求人は昨年より増えています。

 

2つ目が、働き方改革です。今無尽蔵の所定外労働時間を短縮し、毎月10時間削減し、年間120時間減らすとします。これに、全労働者5,500万人の数を掛け算すると、不足工数の総量が出ます。さらに厚生労働省は有給休暇20日取得すべきところ、平均10日しか取れていなかったものを15日取得するようにしようとしています。しかし、必要なサービスの総量は変わりません。

 

そうすると私が試算すると、何人の新たな雇用が必要かというと、1,000万人必要になります。一方では労働力人口が1,200万人減る。これでは人手不足倒産が起こるのは明らかではないでしょうか。

 

そして3つ目が、若者、中高年に関わらずあらゆる人々の働く意味についての原点回帰です。今までは、働く意味は、出世、お金、自己実現でしたが、これからは世のため人のために働くことになります。自分だけの夢を追うよりも自分がすることが社会的価値につながるということをはるかに重視するようになってきている。

 

その中で、介護業界は人間の尊厳を守り高める重要産業、かつ必要産業です。介護業界の仕事は、もっとも大切な、社会性が極めて高い仕事と言えるでしょう。自動車がなくなったとしても、自転車に乗れば良いですが、介護は替わりが効きません。

 

人を大切にする経営を行うことで、人が定着し、いい会社だからという評判で人が入ってくるように革新していかねばなりません。

 

 

 

<プロフィール>

坂本 光司(さかもと こうじ)

元法政大学大学院政策創造研究科教授、人を大切にする経営学会」会長